オーケストラのチューニングは名演奏の始まり。調律やチューニングの大切さを徹底的に紹介!!

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  • 最終更新日:2018年09月10日
  • kojiii

オーケストラの演奏を聴きに行くと、まず最初にチューニングが行なわれます。
全ての楽器が一斉に音を出し、オーケストラの音程と音色の調和をはかるチューニングはそれだけでも実に壮大です!!

生まれて初めてオーケストラを聴きに行った時はまだ演奏が始まったわけでもないのにこの豊穣なるオーケストラのチューニングの音だけで感動してしまいました。これから演奏が始まる期待と共に、胸にぐっと来るものがあって、涙が出そうになった事を覚えています。

今思えばこの瞬間、私のクラシック音楽への愛が更なる飛躍を遂げました。

楽器の調弦をして登場するのにも関わらず、コンサートの際は全体でのチューニングがありますが、これはただのパフォーマンスなのか、真に意味のあるものなのか、そんな疑問にお答えしていきたいと思います。

チューニングの大切さやその基準音の決め方など、オーケストラの素晴らしい演奏を聞くなら知っておきたい情報を徹底的に紹介させていただきます。

オーケストラのチューニングが始まる

オーケストラのチューニング

コンサートにお出かけになったらどうぞオーケストラのチューニングの始まりに注意して耳を傾けてみてください。壮大な音楽が始まる合図のようなものは何度耳にしても心に響きます。

通常のチューニング

コンサートマスター(女性ならコンサートミストレス)がオーボエ奏者に合図をして、オーボエ奏者が音を鳴らします。ドレミファで言えば”ラ”の音です。ここでのオーボエ奏者の真剣な目を見てください。如何に輝かしい音色の音を出すかで、その日の演奏に違いが出るそうです!!まさに大役なのです!!

その音に呼応しておのおのが自分の音を確認します。一斉に行なうことは、オーケストラ全体として調和のとれた音響を生み出すためのものでもあります。

ピアノがメインの曲の場合

ピアノ協奏曲などピアノを使う場合は、ステージセンターにグランドピアノが据えられています。だからオーボエではなくピアノでチューニングします。コンサートマスターがピアノで”ラ”を鳴らしてオーケストラがその音にあわせます。これはピアノが一度調弦したら音を変えることが出来ない楽器だからです。

オーボエを使わない曲の場合

クラリネットがオーボエの変わりに”A”の音を出し、皆がそれにあわせます。

弦楽合奏だけの場合

オーケストラ曲の中で、管楽器を全く使用しない曲もあります。ピアノが入っていればピアノでチューニングできますが、弦楽器だけの曲の場合、コンサートマスターのヴァイオリンの”ラ”の音に皆が合わせます。

弦楽四重奏などもこの方法をとっています。第1ヴァイオリンの人が基準ピッチ”ラ”を弾き、それに3人が合わせます。

何故チューニングはオーボエか?

何故チューニングはオーボエか?

数ある楽器の中でなぜオーボエが選ばれたのか!それはオーボエという楽器の特性から決まったものと思われます。

オーボエが選ばれた理由

これには諸説あるのですが、オーボエは、構造上、リード(口でくわえて息を吹き込むところ)の抜き差ししか、音程を調節できるところがありません。クラリネットで樽を抜くように、またバイオリンで弦の張り具合を変えるようには、音の高さを調整できないのです。

オーボエが音の高さを変えるには、リードの幅や長さで調節するしかなく、演奏当日にその場でぱっと変えるのはほとんど無理。オーボエは音程を調整しにくい楽器だから周りの楽器が合わせなければいけない、それで音合わせの基準になっているというのが真相のようです。

他にもオーボエの音が長くよく響いて他のメンバーに聴こえ易いからといういたってシンプルな理由もあるようです。

オーボエが最初に出す音は”ラ”の音と決まっています。“ラ”の音は、 弦楽器だと開放弦(左の指で弦をおさえない)で弾けますから、音程を合わせやすいという利点があるからです。

弦楽器では駄目?

弦楽器は温度や湿度の影響をとても強く受ける楽器です。一度チューニングをしても演奏しているうちにすぐに弦が緩んできたりします。つまり音程の不安定な楽器といえるわけで、最初に合わせる音としてはあまり適切ではありません。

どうしてチューニングが必要?

どうしてチューニングが必要?

弦楽器ならコンサート前に当然おのおの個別に調弦してますよね。管楽器だって当然です。ではなぜオーケストラのチューニングが必要なのでしょうか。

環境により楽器の音が違ってくる

上でも述べたとおり、各奏者は、あらかじめ楽屋などでチューニングをしておきます。ところが、舞台上は強い照明などのために温度や湿度が楽屋とは違っています。

楽器というのはとても繊細なもので、少しでも温度や湿度などが変わると音程に影響を受けてしまうのです。だからこそ舞台上に出てきた後で微調整を行う必要が生じます。

舞台上でオーケストラがチューニングを行うのはこうした理由によるのです。

チューニングを”ラ”で行なう理由とは

チューニングを"ラ"で行なう理由とは

別に”ド”でも”ファ”でも良いんじゃないかと思ってしまいますがちゃんとした理由があります。オーケストラのチューニングの音が”ラ”の音になった理由をしっかり説明していきます。

“ラ”の音は音楽の原点

音階の誕生にも、諸説あって、ここでは詳しく書きませんが、いろいろな変遷を経て、”ラ”の音が始まりの音として決められました。だから最初の音として”ラ”=”A”なのです。最初は”ABCDEFGA”で始まったのです。

数百年に渡る伝統を重く尊重して、基準の音を”ラ”に決めて、近代音楽が発展してきたのです。

一人で適当に演奏する時は基準なんて決めなくても関係ありませんが、音楽の歴史の中で、楽譜というものが出来上がり、どこでも同じ音楽を再現するようになってくると、ある基準が必要となってきます。

“ラ”の国際基準音を決定

音楽は有史以来、様々な音律によって音階が作られてきましたが、実はその基準となる音の高さ(基準周波数又は基準ピッチともいう)も時代、地域、ジャンルによって様々なものが使われてきました。

1939年ロンドン国際会議と1953年ISOによって国際基準値”ラ”は440Hz(通常”A=440Hz”か”A440″と記す)と決定されました。日本では、戦後の1948年に9年遅れでA=440Hzを導入しましたが、以前は、1859年のパリでの会議、1885年のウィーンでの会議で定められたA=435Hzを標準としていました。

ここで大事なことは、基準音はA=440Hzと決まったということです。つまりピアノの49番目の”ラ”の音は440Hzですよと宣言したことです。因みにNHKの時報のピ、ピ、ピ、ポーンの時のピの部分が440Hzです。

モーツァルトあたりの時代はA=422Hzと今よりも低かったそうです。

基準音”ラ”の変化

せっかく国際的に基準値を決めたにも拘わらず、現在ではA=440を使って演奏しているオーケストラは少数派になってきています。

ドイツ、オーストリア等のヨーロッパのオーケストラ

カラヤンが八面六臂の活躍をしていた時代(20世紀後半)頃から、オーケストラの基準音が少しずつ高くなってきました。これは世界的傾向です。事実今のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団はA=444~446で演奏しているといわれています。カラヤンの魔術といわれたベルリン・フィルの華麗な響きはこうした基準音の変化によるものだといわれています。カラヤンの時代は446Hzだったそうです。

ベルリン・フィルと肩を並べるウィーン・フィルも基本444Hzを使っています。イギリスを除くヨーロッパのオーケストラは444Hzが多いといわれています。

イギリスのオーケストラ

イギリスのオーケストラの多くは440Hzを使っています。ヨーロッパなのに、ヨーロッパ各国と違うのがイギリスの面白いところで、変な拘りがあります。お国柄とでも言うのでしょうか。不思議な国です。ロンドンの会議で基準音を決めたという誇りがあるのでしょうか。

アメリカのオーケストラ

アメリカではほとんどのオーケストラが基準音440Hzを使っています。アメリカ人の体質なのかどうかは分かりませんが、基準音なんて大して関係ないというような感じです。アメリカ人の音楽関係者から基準音の話題を聞いた事がありません。

日本のオーケストラ

ほとんど全てのオーケストラが基準音442Hzを使っているそうです。NHK交響楽団がそう決めたから、右に倣えしたのでしょうか。これも日本人らしいですが。

ただ、学校などの教育機関では440Hzを使って指導しているようです。

基準音”ラ”を高くする訳

たった4、5Hz違うだけで一体何がそれほど問題となるのでしょう。そしてその違いは我々聴衆にどう関わってくるのでしょうか。

音色が華麗で華やぐ

どうして基準音を高めにするのかには理由があります。一番分かり易い楽器は弦楽器です。基準音を上げると音に艶が出て、良い音色になります。オーケストラのように集団で弾く場合に、よりその美しさが際立って華やかに聴こえます。

演奏家の話では、同じ音楽を演奏するにしても、440Hzに合わせた時と444Hzの時とは響きが違うそうです。聴き比べたことが無いので、どれだけ違うのか言葉で表すのは、ちょっと難しいですが・・・。

実際に測定して見ると・・・

音響技師が実際の録音テープから基準音を測ったことがあるそうです。アメリカのクリーヴランド交響楽団は440Hz、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(今のロイヤル・コンセルトヘボウ)は444Hz、カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は445Hz、シカゴ交響楽団441Hz、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団445Hzだったとのことです。

440Hzより444Hzのほうが良いのかというとそれは何ともいえません。確かに音が華麗に鳴って美しくなるのは確かですが、逆に重々しい重低音が必要なときは440Hzのほうが有利です。アメリカは440Hzを使用しているので、アメリカのオーケストラの重低音の魅力はこんなところから来るのですね。

基準音”ラ”を高くした時の三つの問題点

基準音"ラ"を高くした時の三つの問題点

基準ピッチを高くすることが、全て良い結果になるとは言えません。
基準音を高くする事で生じる弊害は間違いなく存在します。

1:声楽家の喉に悪影響

基準音が高くなるということは、簡単に言えば音が高くなることです。女声のソプラノや男声のテノールの場合、オペラやコンサートでかなり高い音を歌わないといけない時があります。440Hzでも大変なのにあと5Hz上がるだけでも、喉へ掛かる負担は計り知れません。

例えば、モーツァルトのオペラ『魔笛』の「夜の女王のアリア」は物凄い高い音を要求されています。2オクターブ上のドの音を何回も出さねばなりません。客からすれば一番の聴き所です。この役を歌うソプラノ歌手は一番の見せ場です。無理してでも音を出そうと必死です。

高音を出すことは喉を酷使することにつながる為、声楽家にとっては死活問題です。

2:他の楽器と合わなくなる

弦楽器などは弦の巻き閉めで音の高低を微調整できます。管楽器でもオーボエとファゴット以外はある程度の調律は可能です。

しかし、マリンバ、シロフォン、グロッケンシュピールなどの鍵盤楽器は調整できません。作られたままの音ですから、周りの基準音が高くなったとしても、自分ではどうしようもない楽器です。

基準ピッチを上げ過ぎると、これらの楽器と不協和音になってしまうので、当然限度というものがあります。

3:弦楽器への悪影響

基準音を上げることは、弦楽器では弦の張り具合を強くすることです。弦の張りを強くしすぎると、弦にも負担がかかり、伸びたり、切れ易くなります。440Hzで1ヶ月もっていた弦が、2週間で切れてしまうといった問題が出てきます。

また、全ての弦の張りを強めるのですから、弦楽器のネックや筺体への負担も大きくなります。楽器にとって良いことではありません。

今後のあり方

基準音の今後のあり方

せっかく決めた基準音なのに、このばらばらな状態に対してどうすれば良いのか?それともこのままの状態の方が良いのかは、難しい判断です。

基準音の会議

音楽家、音楽評論家、音楽学者等を交えて、この問題をどうすればよいかの会議が有ったそうです。しかし、各自言いたいことのみ主張しただけで、結局何の指針も出さず、閉幕したそうです。

それも当然の話だと思います。基準音を守れば全ての問題が解決するわけでは有りませんから。

どうすれば良いのか

コンサートホールは固有の周波数特性を持っているそうです。そのホールに一番合う基準音があり、その基準音に合わせて440Hzから少しずつ調整するという形が本当は一番良いのではないかとの話です。

音響の専門家ではないので、どうしてそうなるのかは正確にはわかりませんが、かのNHKホールは442Hzに合うように作られているそうです。だから、そこを拠点としているNHK交響楽団は442Hzで合わせているそうです。

正直な話、単なるクラシック大好き人間には、難しすぎる話です。各オーケストラがそれで演奏していると思って聴いていれば良いだけですね。基準音なんか考えてコンサートを聴いたことなんか無いですからね。

指揮者チェリビダッケの逸話

指揮者チェリビダッケの逸話

たかがチューニングですが、音合わせとはとても難しいことです。
有名な指揮者のチューニングに関する異常なまでのこだわりの強さを紹介したいと思います。

オーケストラのチューニングの難しさ

名前を出すのは気の毒なので、ある日本のオーケストラということにしておきましょう。昔、今は亡き、巨匠といわれたチェリビダッケを招きました。今にして思えば、あんなに気難しかった彼が、こんな極東の遠い国のオーケストラをよく振りに来てくれたものだと思います。

彼が最初の練習で、オーケストラの前に立ち、オーケストラがチューニングしたところで、そのチューニングが気に入らず、またチューニングをさせたそうです。

何度も何度も音が狂っているとオーケストラのチューニングのやり直しを命じました。これも揃っていない、また今回も違っている、といった具合に、オーケストラのチューニングだけに貴重な30分という時間を費やしたという話です。

プロのオーケストラにとって、ありえない話です。かなり屈辱的です。日々のチューニングが適当だった事を暴露されてしまったということです。

チューニングの大切さ

音が合っていない楽器をあわせると、音に微妙な濁りが出ます。「うなり」が生じて、耳の良い人にはとても不快だそうです。チェリビダッケレベルの指揮者には1ヘルツ、2ヘルツの違いを聞き分けられたのでしょう。

チェリビダッケの練習の厳しさは定評あったことですが、音楽の練習をやる前に、オーケストラのチューニング自体だけでこんなに時間をかける、この指揮者の求める音楽がどれだけハイレベルの物かが判ってくる思いがします。

如何にチューニングが大変な作業なのか、また、その大切さを教えてくれる貴重な逸話でした。

まとめ

オーケストラにとって、そして音楽を演奏する上で、まずやらねばならない事が『チューニング』です。簡単に見えていますが、実はとても大切なことをしているということを、わかっていただければ幸いです。

各オーケストラの基準音問題はこれからも幾度と無く、問題とされるでしょう。それは専門家にお任せするしかないですね。

今度オーケストラのコンサートに行ったら、こんな理由でオーボエでチューニングするんだよって、豆知識を披露してください。クラシックに詳しい人だって思われますよ。

コンサートに行って、いざオーケストラのチューニングが始まると、さあ、いよいよかと胸が高まります。基準音なんて気にせずに、良い音楽を味わってください。

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