東京で2枚の「ひまわり(ゴッホ作)」を見比べる事のできる奇跡の57日間

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  • 最終更新日:2020年07月10日
  • ogawa

ゴッホは、ひまわりの花が花瓶に活けられた構図の絵を7枚描いたといわれています。

このうち2枚の「ひまわり」を、期間限定で東京で見比べる事ができると言ったら、皆さんは驚くでしょうか。

東京・上野の国立西洋美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー東京展」と、東京・新宿のSOMPO美術館「開館記念展Ⅰ.珠玉のコレクション」に、それぞれゴッホの「ひまわり」が展示されるのです。

東京で2枚の「ひまわり」をハシゴ鑑賞する、贅沢ができるというわけです。

今回は、この2枚の「ひまわり」をご紹介しましょう。

また、それぞれの美術館がどうやって「ひまわり」を収蔵するようになったかも、解き明かしたいと思います。

ゴッホが描いた7枚の「ひまわり」のうち…

ゴッホが描いた7枚の「ひまわり」を描かれた順に並べてみましょう。

  1. 1888年 8月 個人(アメリカ)背景・青
  2. 1888年 8月 山本顧彌太(戦災で焼失:兵庫・芦屋)背景・青
  3. 1888年 8月 ノイエ・ピナコテーク(ミュンヘン)背景・青 サイン有り
  4. 1888年 8月 ロンドン・ナショナル・ギャラリー 背景・黄色 サイン有り
  5. 1888年11月 SOMPO美術館(東京・新宿)背景・黄色
  6. 1889年 1月 ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)背景・黄色
  7. 1889年 1月 フィラデルフィア美術館 背景・青

このように、ゴッホは、ひまわりの花という同じモチーフを描く度に研鑽を重ねていたのです。

4枚目と5枚目のひまわりが東京に

今回、ロンドン・ナショナル・ギャラリーから、ゴッホの4枚目の「ひまわり」が珠玉の作品群と共に来日しました。

展示会場は東京・上野の国立西洋美術館です。

そして、5枚目の「ひまわり」は、現在、東京・新宿のSOMPO美術館に収蔵されています。

世界中に散らばったゴッホの7枚の「ひまわり」のうち、4枚目の「ロンドン版」と、5枚目の「東京版」が、東京に揃うというわけです。

日本を愛していたゴッホも、こんな事が起きるとは考えもしなかったのに違いありません!!

2枚の「ひまわり」を東京で同日に見比べる事ができるのは、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー東京展」と、SOMPO美術館「開館記念展Ⅰ.珠玉のコレクション」の会期が重なる2020年7月10日から、9月4日までの57日間だけです。

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「ロンドン版」と「東京版」の違い

「ロンドン版」と「東京版」にどんな違いがあるのでしょうか。

素朴な印象の「ロンドン版」

「ひまわり」の連作は、挫折ばかりだったゴッホが、南フランス・アルルで芸術家の共同体を作ろうと、希望に燃えて招いたゴーギャンを歓迎するために描いたとされています。

ゴッホは、友人への手紙の中で語っています。

「アルルの『黄色い家(アトリエ)』を、6枚の『ひまわり』の絵で飾ろうと思っています。ゴシック様式の教会のステンドグラスのようにしたいんだ。計画を実行すれば、この『黄色い家』全体が、青と黄色で一つのシンフォニーになるだろう」

そういうわけで、1枚目~3枚目は、花の背景が青でしたが、この4枚目の「ロンドン版」からは、背景が黄色くなっています。

輪郭は素朴で、現代の抽象画のような感じも受けます。

この「ロンドン版」こそ、ゴッホ自身が気に入っていて、ゴーギャンの寝室に飾ろうと思った1枚といわれています。

絵の中の花瓶に、自分の名前をサインしているからです。

よりダイナミックな「東京版」

「東京版」は、描かれているひまわりが15本。「ロンドン版」と同じです。

「東京版」は、「ロンドン版」を見ながらゴッホが描いた作品といわれています。

ゴッホは、「想像では絵が描けない。ひまわりはすぐ枯れてしまう」と手紙で語っているからです。

「東京版」は「ロンドン版」に比べ、より厚塗りになっている点や、茎の線や輪郭線が複雑になり、色数も多く、グラデーションが微妙に深くなっている点など、研究の跡を見る事ができます。

ゴッホは、「ひまわり」を7枚描き上げた後、ゴーギャンと仲違いをし、精神病院に自ら入って、ピストルで自殺してしまいます。

残されたゴッホの絵は、それぞれ、様々な所有者を転々とし、美術館に収蔵されることになります。

「ロンドン版ひまわり」来歴

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で来日する「ロンドン版ひまわり」は、ゴッホ亡き後、アムステルダムのゴッホの親戚の手を経て、オランダ・ハーグの収集家のもとへ売りに出され、さらに、イギリスのレスター・ギャラリーに売却されました。

1924年、実業家サミュエル・コートールドが、「ロンドン市民のために最高の芸術を」という趣旨のもと基金を提供して買い取り、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションに加わりました。

「東京版ひまわり」来歴

そして、「ロンドン版」の次にゴッホが描いた5枚目の作品こそ、現在、私たち日本人が東京・新宿「SOMPO美術館」で見る事ができる「ひまわり」です。

この「東京版」はどういう経緯で東京の美術館に収蔵されたのでしょうか。

美術館の「目玉」を探せ

旧・安田火災海上保険(現在の損保ジャパン)は、自動車保険の分野で業績を伸ばし、1976年、新宿にビルを建て美術館を作りました。

当時まだ珍しかった「メセナ(ビジネスで得た利益の一部を芸術文化振興活動として、社会に還元する)」の一環でした。

しかし、来館者は毎日数えるほどでした。それを見た後藤社長(当時)は、何とかしてこの美術館を観覧者でいっぱいにしたいと思いました。

そのためには、この美術館に、世界中の誰もが知っている目玉となる絵が、どうしても欲しいと思ったのです。

指令・ゴッホの「ひまわり」を落札せよ!!

後藤社長は、知り合いのロンドンの大手オークション会社「クリスティーズ」のジェームス・ラウンデルから「次回のオークションで大物の出品がある」との情報を得ます。

それが、ゴッホが描いた5枚目の「ひまわり」でした。

絵の所有者が亡くなって、遺族が売却したがっているとの事でした。

東京で開催された下見会で実物を見た後藤社長は「これだ!!」と確信し、何としても手に入れたいと思ったのです。

そして、「ひまわり」入手の任務を命じられたのが、安田火災の社員、阿部肇でした。

阿部は、美術に関しては全く素人の一介のサラリーマンでしたが、後藤社長から「何としても『ひまわり』を落札すべし!!」との指令を受け、その実現のために、ロンドンへ向かうのです。

ライバル現る

1987年3月30日、夜7時25分、クリスティーズでオークションが開始されました。

ラウンデルによると、「或るオーストラリア人が非常に『ひまわり』を欲しがっている。落札価格は1,700万ポンド(約40億円)ぐらいにはなるだろう」との事でした。

ラウンデルの言う通り「ひまわり」の値段はどんどん上がっていきます。

阿部も競りに参加しますが、あっという間に1,000万ポンド(約24億円)、2,000万ポンド(約48億円)を突破。

阿部は、オークション会場の柱の陰に居るラウンデルに、頼んでありました。

「私が腕を組んでいる間は、私に競り落とさせてくれ。私が腕を下ろしたら降りる合図だ」

ラウンデルと二人で組んで、「ひまわり」落札を目論んだのでした。

しかし、ここで阿部の前に強力なライバルが現れます。

茶色い髪の眼鏡の女性が、次々と値を上げていったのです。

初オークションに戸惑う

「眼鏡の女性がオーストラリア人の代理人か?」

阿部は悩みました。

落札価格の1割の金額がクリスティーズの懐に入るので、ラウンデルがこの落札劇を仕組んでいるのではないかと疑ったのです。

「眼鏡の女性は本物か。クリスティーズ側が仕立てたサクラではないのか。

こんなに予想価格が上がっていくのは普通の事なのか。

ラウンデルを信じていいのか…」

また、阿部は、後藤社長から、安田火災が使える金額は2,100万ポンド(約50億円)までと言われていました。

「ライバルの眼鏡の女性が、それ以上提示したらどうするのか」

当時は携帯電話などという便利な物はないので、社長に判断を仰ぐ事もできません。

落札

阿部が悩んでいるうちに、ついに、眼鏡の女性が2,100万ポンドの金額を提示しました。

阿部は決断します。

自分の裁量で、あと150万ポンドを載せたのです。

オークショニアがハンマーを打ち鳴らしました。

こうして、安田火災は、2,250万ポンド(約53億円)で落札に成功したのでした。

会場に拍手と歓声が巻き起こりました。

それまでの絵画落札最高価格を3倍近く更新した瞬間でした。

そのとき阿部は「ああ良かった。これで解放された」と思ったと同時に、自分の判断で3億円も予算オーバーしてしまったので、後藤社長になんと言われるか心配したといいます。

しかし後藤社長は大喜びで阿部をねぎらってくれたそうです。

予算オーバーについても咎めなしでした。

それが、新宿の「SOMPO美術館」で、今私たちが見る事ができる「東京版ひまわり」なのです。

美術品を観覧者が見るまでに、様々な人の尽力とドラマがあるのだと改めて思います。

まとめ

ドラマに満ち溢れた2枚の「ひまわり」を、期間限定で東京でハシゴ鑑賞する事ができるのは、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー東京展」と、SOMPO美術館「開館記念展Ⅰ.珠玉のコレクション」の会期が重なる2020年7月10日から、9月4日までの57日間、この奇跡のような機会を、逃す事がないようおすすめします。

アルルで芸術家の共同体を作ろうとゴーギャンを招き、「ひまわり」を描き続けたゴッホの熱い思いに、ぜひ触れてください!!

  • 「ロンドン・ナショナル・ギャラリー東京展」2020年6月18日(木)~10月18日(日):東京・上野の国立西洋美術館 (2020年11月3日(火・祝)から、大阪に巡回)
  • 「開館記念展Ⅰ.珠玉のコレクション」2020年7月10日(金)~9月4日(金):東京・新宿のSOMPO美術館
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両展覧会とも日時指定制となっているのでご注意ください。

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